EU・中国間の輸出管理(レアアース・半導体)協議に関するビジネス影響分析

AIを用いてまとめた分析です。

1. エグゼクティブ・サマリー(最重要点)

  • レアアース規制(拡大分)の停止: EUと中国は輸出管理を巡る対話を継続。中国が10月に導入したレアアースの広範な新規制(対象元素・技術の拡大、第三国での使用管理等)について、発効から1年間の停止とすることで合意。この措置がEUにも適用されることを欧州委員会が確認しました(セフチョビチ欧州委員発表)。[Reuters, Reuters+1]
  • 既存規制の摩擦は継続: あくまで「10月拡大分」の停止であり、それ以前から存在する既存の輸出許可制度・審査は存続します。欧州委員会は「供給網の安定確保と一般許可(General Licences)などライセンス円滑化の議論を継続する」としており、当面はライセンス遅延などの摩擦が続く見込みです。[South China Morning Post]
  • 半導体の火種(Nexperia問題): 蘭政府によるNexperiaの管理下移行への対抗措置として、中国商務省が同社の中国拠点からの対外出荷を一時ブロックしていた問題も議題となりました。現在は、一部輸出の免除(Exemptions)を検討する段階に進展しており、供給危機回避の糸口が見え始めています(ただし実装は未確定)。[Reuters+1]
  • マクロ環境: 中国は希土類精製で世界シェア90%超を占めます。今回の「1年停止」は世界供給の冷却材となりますが、期限付きであり政策リスクは依然高い状態です。EU側はCRMA(重要原材料法)による自給率向上と規制協調を並行して進めています。[Reuters+1]

2. 現状整理:何が「決まった」のか/何が「変わらない」のか

決まったこと(短期的な安心材料)

  • 中国が10月に拡大したレアアース輸出管理措置が、1年間停止されます(EU向けにも適用)。[Reuters]
  • EUと中国は、輸出管理の実務運用(実装)の改善に向け、継続的に協議を行う枠組みが維持されます。

変わらないこと(継続する摩擦・リスク)

  • 拡大「前」から存在する既存の輸出許可制・審査は存続します。欧州企業は、ライセンス申請の遅延や手続き負荷の影響を引き続き受ける見込みです。一般許可の導入などはまだ「検討段階」です。[South China Morning Post]
  • 10月の新ルールが示した広範な管理構造(対象元素・装置・技術の拡大、域外使用への関与)自体は撤回されておらず、構造的な政策リスクは払拭されていません。[Reuters]
  • Nexperiaを巡る輸出ブロックは「部分的免除の検討」に入った段階であり、全面解消は未確定です。欧州の自動車向け汎用半導体の供給リスクは、引き続き注視が必要です。[Reuters]

3. 企業インパクト(業界別の要点)

自動車・EV/産業機械

  • 永久磁石(レアアース): Nd-Fe-B系磁石の確保とコスト見通しが引き続き主要課題です。「拡大規制の停止」はコストの急激な上振れを回避する材料ですが、既存許可制によるリードタイムの不安定さは残ります。[South China Morning Post]
  • 車載半導体: Nexperiaの動向が、車載ディスクリート半導体の短期的なボトルネックとなります。免除が実務レベルで浸透すれば逼迫は和らぎますが、契約・在庫の手当ては当面継続が必要です。[Reuters+1]

再エネ(風力)・家電・防衛

  • 高性能磁石(Tb、Dy等の重希土類)や、分離・焼結工程での中国依存が続きます。今回の「1年」という猶予期間を、代替材・再生材の検証、在庫戦略の見直しに振り向ける好機と捉えるべきです。

半導体サプライチェーン

  • 中国国内の後工程(組立・テスト)に依存する欧州ブランド品の、欧州向け再輸出許可が当面のボトルネックです。Nexperia問題で焦点となった「免除」の実務運用と、原産地・加工地の設計変更の検討が重要になります。[Reuters]

調達・法務・コンプライアンス

  • EU側もデュアルユース(軍民両用)管理表の2025年更新や、アウトバウンド投資(対外投資)レビューの導入を進めています。中国側だけでなくEU側の規制強化にも対応する社内コンプライアンス体制、品目特定の棚卸しが急務です。[Trade and Economic Security+1]

4. 直近90日のアクション(実務チェックリスト)

  1. クリティカル部材の「品目・工程マップ」更新
    • HSコード、中国側の輸出許可要件(既存分)、再輸出の可否、第三国加工時の適用有無を可視化します。
    • (例:レアアース原料 → 磁粉 → 磁石 → モーター のどの段階で許可が必要か)
  2. ライセンス戦術の二段構え
    • 既存許可: 申請の前倒しと、書類簡素化のための社内テンプレートを整備します。
    • 一般許可: EU・中国協議で議題化された「一般許可(General Licences)」の動向を監視し、対象となり得る品目の型番集約(グルーピング)を進めます。[South China Morning Post]
  3. 在庫と代替の「移行戦略」策定
    • 1年の停止期間を、安全在庫レベルの見直し(目標DIO、供給元別バッファ)に充てます。
    • 代替材・代替工程(重希土類削減磁石、代替磁材、欧州内分離・再生材)の検証を加速します。CRMA(重要原材料法)関連のサプライヤーやプロジェクトも把握します。[European Commission]
  4. 契約条項と価格式のアップデート
    • 政府規制変更条項(Change in Law)、不可抗力条項を明確化します。
    • 価格スライダー(変動条項)に希土類指数や合金サーチャージを組み込みます。
    • Nexperia等の個別企業リスクに備え、供給保証条項を見直します。[Reuters]
  5. 社内ガバナンス:輸出管理 × 事業継続(BCP)
    • 責任者、承認フロー、監査証跡を整備します。特にEUのデュアルユース更新やアウトバウンド投資レビューの要請に合わせて、海外設計拠点、合弁事業、研究投資の技術スコープを再点検します。[Trade and Economic Security+1]

5. シナリオと備え

  • ベースケース: 拡大規制は停止状態が継続。既存許可制は「一般許可」の導入などで運用が部分的に改善。Nexperiaは段階的免除が実務適用され、欧州自動車向けの急性リスクは後退。ただし、申請遅延や一過性の逼迫は継続する。[South China Morning Post+1]
  • アップサイドケース: EU・中国が包括的なライセンス簡素化で合意し、優先品目リストの迅速処理が実現。レアアース・半導体ともに納期が安定する。
  • ダウンサイドケース: 地政学的な緊張激化などにより、1年を待たずに「停止」が打ち切られ、拡大規制が再強化される。Nexperiaを含む域外再輸出に対し、新たな条件が付与される。JIT(ジャストインタイム)生産に打撃が及び、価格とリードタイムが再び急騰する。[Reuters]

6. 重要な背景(コンテクスト)

  • 10月の拡大規制の中身: 対象となる希土類、関連装置、技術を増やし、ライセンス要否の範囲を広げました(第三国での利用に関与する場合も含むと解釈される文言)。今回の合意は、この「拡大分」を1年間停止するものです。[Reuters]
  • EUの政策側面:
    • CRMA(重要原材料法): 2030年までに域内抽出10%・加工40%・リサイクル25%等の目標を設定。特定一国(=中国)からの依存度を各工程で65%未満に抑える目標です。[European Commission]
    • デュアルユース規制: 2025年の管理表改定が進行中。量子、半導体、先端材料の更新に対応が必要です。[Trade and Economic Security]
    • アウトバウンド投資レビュー: 2025年1月の欧州委勧告に基づき、半導体・AI・量子等への対外投資のリスク点検を加盟国に要請しています。[Reuters]
  • Nexperiaの特殊要因: 蘭政府が同社を管理下に移行させたことへの対抗として、中国側が輸出ブロックを発動。その後、欧州自動車業界の汎用品不足リスクが顕在化したため、免除検討へと舵を切った経緯があります。[Reuters+1]
  • 構造的依存: 希土類の精製および磁石製造において、中国が支配的な地位にあり、EUの短中期的な完全自立は困難です。[Reuters]

7. 直近のマイルストーン(ウォッチリスト)

  • 今後数週間: EU・中国「輸出管理対話」のフォローアップ。レアアースのライセンス円滑化(一般許可など)の具体策に注目。[South China Morning Post]
  • (随時): Nexperia問題。免除の適用範囲と実務プロセスの運用開始時期。自動車OEMやTier1サプライヤーの納期アラートを監視。[Reuters]
  • ~2025年末: EUデュアルユース管理表の改定施行。社内の該非判定リストや基幹システム(SAP等)のマスタ改修期限。[Trade and Economic Security]
  • ~2026年10月: 中国のレアアース拡大規制「1年停止」の期限。延長、再開、あるいは新制度への移行のシグナルを早期に検知する。[Reuters]

8. 現場向けミニFAQ

Q. 「1年停止」=リスク解消、と考えてよいか? A. いいえ。停止されたのは「10月拡大分」のみです。既存の許可・審査は継続しており、ライセンス遅延は依然としてボトルネックです。申請の前倒し、品番集約、安全在庫による緩衝策は継続してください。[South China Morning Post]

Q. 欧州向けの供給は改善するか? A. 短期的には改善が期待できます(拡大分停止+Nexperia免除検討)。ただし、合意内容が実務の運用(申請→審査→出荷)に反映されるまでには時間差が生じます。暫定的な代替調達・在庫戦略は維持してください。[Reuters]

Q. どの分野が最も神経質になるべきか? A. 2系統あります。①磁石を多用するモーター関連(EV、風力発電)と、②車載向けの汎用ディスクリート半導体です。この2つは「安定供給が収益に直結」する分野であり、引き続き最重要監視対象です。[Reuters]


9. 総括(ひと言まとめ)

今回の合意は、中国側による「拡大規制の即時発動にブレーキ」をかけ、「対話の継続」を選んだ**「時間を買う」措置**です。

企業側はこの1年の猶予期間で、既存ライセンス運用の省力化、在庫設計の最適化、代替ルート(代替材・代替工程)の検証を一段引き上げ、「止まらない調達」の体質化を進めることが最善策となります。

「米国が日本製トラック・バスに新関税」のビジネス実務への影響分析

AIにまとめてもらった分析です。

(2025年11月1日 米国東部夏時間 0:01 発効)

1. 要点(エグゼクティブ・サマリー)

  • 概要: 米国政府は、通商拡大法232条(国家安全保障条項)に基づき、日本製を含む特定品目に追加関税を課す大統領布告を発出しました。この措置は既存の関税に上乗せされ、2025年11月1日(米東部夏時間 0:01)より発効しています。
  • 対象と税率:
    • 中・大型トラック(MHDV)および主要部品: 追加 25%
    • バス(HTS 8702): 追加 10%
  • 日本への影響:
    • トラック: 日本原産の完成トラックは、従来の関税(通称「チキン税」25%)に新たな25%が加算され、合計で約**50%**という極めて高い関税率が課されます。
    • バス: 従来の一般税率(約2%)に10%が上乗せされます。
  • USMCA(北米自由貿易協定)の特例:
    • 完成車(トラック): メキシコやカナダでUSMCA原産資格を満たす場合、追加25%関税は、車両価額のうち**「非米国コンテンツ価額」部分にのみ適用**されます。ベース関税は原則0%です。
    • 部品: USMCA原産の部品は、当面は追加関税の適用が停止されます。ただし、ノックダウン(KD)キットは課税対象です。
  • 通関実務: CBP(米税関・国境警備局)は、CSMS(通関業者向け通知)を通じて、HTS第99類(Chapter 99)コードの申告方法など具体的な通関指示を公表しています。

2. 政策の詳細と実務上のポイント

項目内容根拠
税率と発効日・トラック・主要部品: 追加 25%
・バス(HTS 8702): 追加 10%
・発効: 2025年11月1日 0:01 (EDT) 以降に「輸入(消費のための引取り)」される貨物から適用。
USMCA原産トラックの特例USMCA原産資格を満たす中・大型トラックは、追加25%関税が**「非米国コンテンツ価額」部分にのみ適用**される。米国産コンテンツ価額部分は課税対象外となる。
USMCA原産部品の扱いUSMCA原産のトラック部品は、商務省とCBPが非米国コンテンツ部分のみに課税するプロセスを整備するまで、当面は追加関税の対象外となる。
KDキットの例外KD/CKD(ノックダウンキット)は、USMCA原産資格を満たす場合でも課税対象と明記された。
米国内生産へのオフセット措置米国内のトラック組立メーカーは、完成車価額の**3.75%**相当額を上限に、輸入部品に課された232条関税を相殺(オフセット)できる制度を活用できる。
日本製部品への特例一部の日本製自動車部品について、既存の関税率が15%未満の場合、232条関税と合わせて**合計15%**となるよう税率が調整される。

3. コスト影響の簡易試算

ケースA:日本から完成トラックを直接輸入(CIF価格 $120,000)

  • 既存関税 (25%): $30,000
  • 新232条関税 (25%): $30,000
  • 合計関税: $60,000 (CIF価格の50%)

ケースB:メキシコで組立(USMCA原産)、非米国コンテンツ比率45%(CIF価格 $120,000)

  • ベース関税: 0% (USMCA特恵)
  • 新232条関税: $120,000 (CIF) × 0.45 (非米国比率) × 0.25 (新税率) = $13,500
  • 実効関税率: 11.25%相当

免責事項: 上記は概算です。実際の負担額は、HSコード、原産性、課税価格、その他費用(HMF/MPF等)により変動します。必ず専門家にご相談ください。

4. 企業別の影響と対応策(To-Doリスト)

1) 完成車の輸入事業者(ディーラー、商社)

  • 影響: 日本原産トラックの実効税率が約50%となり、価格競争力が著しく低下する。
  • 対応:
    • HS分類の再精査: 税率が異なる8702(バス: 10%)と8704(貨物車: 25%)の分類は、CBPの審査が厳格化する見込み。証拠資料を整備する。
    • 物流戦略の見直し: 関税は「消費のための引取り」時点で課されるため、保税倉庫やFTZ(外国貿易地域)の活用を再検討する。

2) 北米での組立事業者(OEM、Tier1サプライヤー)

  • 影響: USMCA原産資格がコストを左右する。コンテンツ比率の管理が重要となる。
  • 対応:
    • BOM(部品表)の精緻化: 「米国コンテンツ比率」の正確な算定と、サプライヤーからの証明書回収プロセスを構築する。
    • USMCA監査への備え: 原産地証明、地域価額割合(RVC)の計算根拠など、監査に耐えうる記録管理を徹底する。
    • KD生産の見直し: 課税対象となるKDキットに代わり、北米内での溶接・塗装など、より実質的な製造工程への移行を検討する。

3) 日本からの部品サプライヤー

  • 影響: USMCA原産部品は当面適用除外だが、制度変更後は課税リスクが顕在化する。
  • 対応:
    • CBPガイダンスの反映: IOR(輸入者)と連携し、Chapter 99コードの申告など実務手順を更新する。
    • 契約条件の見直し: 関税サーチャージ条項の導入や、インコタームズの変更(DDPへの切り替え等)を検討し、関税負担リスクを明確化する。

5. よくある誤解と注意点

  • 誤解: 「USMCA原産なら新関税はゼロになる」
    • 訂正: なりません。完成トラックの場合、「非米国コンテンツ」部分には25%が課税されます。
  • 誤解: 「USMCA原産の部品は(新関税に)関係ない」
    • 訂正: 当面は適用停止ですが、恒久的ではありません。また、KDキットは当初から課税対象です。
  • 注意点: 関税は「輸入申告(消費引取り)時点」で課税される
    • 船積日や契約日ではなく、米国内での法的な輸入手続きのタイミングが重要です。

6. 日本企業が取るべき戦略オプション

  1. 北米での製造工程の深化: 課税対象のKD/CKDを避け、北米(米国・メキシコ・カナダ)での溶接・塗装といった実質的な工程を増やすことで、米国コンテンツ比率を引き上げる戦略が有効です。
  2. サプライチェーンの再設計: 「日本 → メキシコ(組立) → 米国」という流れでも、日本製コア部品の比率が高いと関税メリットが薄れます。サプライヤーの北米現地化や代替調達の費用対効果を再評価する必要があります。
  3. 契約・価格戦略の見直し: 関税変動を織り込んだ価格調整条項を契約に盛り込むことが、今後の標準的なリスク管理手法となります。
  4. コンプライアンス体制の強化: HSコード分類、原産地証明、BOM(部品表)の整合性など、CBPの事後調査(監査)に耐えうる文書管理体制が、企業の財務リスクを直接的に左右します。

イタリア産パスタへの米追加関税「107%」報道の背景

以下は、「イタリア産パスタへの米追加関税、107%へ拡大見込み」という報道について、一次資料に基づき整理したものです。

結論: 米商務省のアンチダンピング(AD)年次見直しの暫定結果で91.74%という高率が示されたことに加え、別途進行している米・EU間の「相互(レシプロカル)関税」枠組みによる15%が合算されるため、実効税率が約107%(91.74% + 15% = 106.74%)に達する見込みです。AD税率の最終決定は2026年1月初旬の見込みです。

何が起きているか

米商務省がイタリア産パスタ(特定範囲)のAD年次見直し暫定結果(2025年9月4日公表)で、主要企業に91.74%(非協力=AFA扱い)を通知しました。

これとは別に、米・EUは2025年8月21日に「相互関税」枠組みに合意しており、多くのEU産品にはMFN税率または15%のいずれか高い方が適用されています。パスタのMFN税率は通常1.5%程度のため、相互関税枠組みでは実質的に15%となります。

この2つの制度の合算(AD 91.74% + 相互関税 15% = 約107%)が「107%の見込み」の内訳であり、まだ最終確定ではありません。

暫定結果の中身(AD年次見直し)

対象期間: 2023年7月1日~2024年6月30日の輸入分

暫定加重平均ダンピング率: 91.74%

  • La Molisana S.p.A.: 91.74% (AFA)
  • Pastificio Lucio Garofalo S.p.A.: 91.74% (AFA)
  • 非個別審査11社: 91.74%

非個別審査企業には、Barilla、Rummo、Gruppo Milo、Liguori などが含まれます。

AFA適用の理由: 商務省は、対象企業が要求情報の未提出等により協力的でなかったと判断し、Adverse Facts Available(申請者側に不利な情報)を適用しました。

今後のスケジュール:

  • 意見提出: 官報掲載から21日以内
  • 最終結果公表: 官報掲載から120日以内(2026年1月初旬めど)
  • 輸入時の預託(キャッシュデポジット)率の更新は、最終結果の公表後に有効化されます

「107%」の根拠(AD 91.74% + 相互関税 15%)

報道されている「107%」は、2つの異なる制度の税率を合算したものです。

  1. AD関税(暫定): 91.74%
    上記で説明した年次見直しの暫定税率
  2. 相互(レシプロカル)関税: 15%
    2025年8月21日、米・EUは相互関税の枠組みで合意しました。これにより、多くのEU産品は「MFN税率または15%のいずれか高い方」が適用されます。パスタのMFN税率は通常1.5%程度のため、相互関税枠組みでは実質的に15%となります。

したがって、**AD(暫定)91.74% + 相互関税 15% = 実効税率 約107%**となるのが、報道の根拠です。

注意点: AD制度には既存の一般率(all-others rate)がありますが、これは今回の91.74%にさらに足すものではありません。報道の「+15%」は、別制度である「相互関税」を指しています。

影響を受ける企業(暫定リスト概要)

個別審査(91.74%): La Molisana、Garofalo

非個別審査(91.74%): Barilla、Gruppo Milo、Rummo、Agritalia、Liguori、Antiche Tradizioni di Gragnano、Cocco、Chiavenna、Aldino、Sgambaro、Tamma(計11社)

審査取下げ/対象外: Andriani、DeLallo、Di Martino(Pastificio dei Campi含む)、Mediterranea、Rigo ほか(これらの企業は今回の見直しから外れ、各社の現行率が維持されます)

対象製品(スコープ)と主な除外品

このAD措置は、全てのイタリア産パスタが対象ではありません。自社製品が該当するかどうかの確認が必須です。

主な対象:

  • 乾燥・非卵パスタ
  • 小売向け2.27kg (5ポンド4オンス) 以下のパッケージ
  • 強化・ビタミン・色付け等を含んでも可、卵白は2%まで許容
  • 主にHTSUS (関税番号) 1902.19.20に該当

主な除外例:

  • 冷蔵、冷凍、缶詰のパスタ
  • 卵パスタ(定義上の例外あり)
  • オーガニック(EU認可機関によるUSDA National Organic Program準拠の認証付)
  • グルテンフリー
  • 5ポンド超の大袋(業務用など)
  • 装飾瓶入りの多色パスタ、一部のラビオリ/トルテッリーニ等

いつからどのように効くか

AD(91.74%): 現時点では「暫定」です。最終結果(2026年1月初旬頃)が公表されてから、将来の輸入に対する預託率(キャッシュデポジット)が更新されます。対象期間(2023年7月1日~2024年6月30日)の過去の輸入分は、最終率に基づき清算(アセスメント)されます。

相互関税(15%): 2025年8月21日に枠組み合意が発表され、9月1日から段階的に適用が開始されており、既に有効な枠組みとして以降の輸入に適用されています。

EU・イタリア側の動き

イタリア外務省は10月6日頃に対応を表明し、91.74%という暫定率は不均衡であるとしてEU委員会と連携し、対米働きかけと企業支援を表明しました。

EUのセフチョビチ委員も「パスタへの合計107%の関税は受け入れがたい」と述べ、米側と協議中であると発言しています。

実務影響と対応のヒント

該当企業の特定: 仕入先の生産者名義(輸出者)が暫定リストにあるか確認が必要です。別ブランドで販売されていても、生産者名義で税率が左右されます。

スコープ(対象範囲)の精査: パッケージ重量(5ポンド超か以下か)、原材料(卵、グルテンフリー)、認証(オーガニック)の有無で、対象外になり得る商品がないか、法令の文言に沿って再確認してください。

原価試算(例): CIF価格 $1,000 の対象商品の場合、AD 91.74%で $917.40、さらに相互関税で最大 $150(MFN<15%の場合)が加算され、合計 $1,067.40(実効約107%)の追加負担となり得ます。

サプライヤーへの働きかけ: 最終決定(120日以内)に向け、サプライヤー(生産者)に対し、AFA回避のために米側調査票やデータ提出に協力するよう要請することが考えられます。

サプライ戦略の検討:

  • 米国内生産品: Barillaは米アイオワ州Ames(1999年開設)・ニューヨーク州Avon(2007年開設)にも工場を持っています。「Made in USA」品はADの対象外です。
  • 対象外カテゴリー: オーガニック、グルテンフリー、業務用大袋など、スコープ外の製品への切り替えを検討します。
  • 他原産地: トルコ産パスタにも別途AD命令が継続しているため、原産地変更時は慎重な調査が必要です。

よくある誤解の整理

Q: すでに107%が発動している?
A: いいえ、まだ「暫定」です。ADの最終結果(2026年1月初旬頃)が出てから、その税率での預託が始まります。相互関税15%は既に有効ですが、**合計107%はあくまで「最終率が暫定通り確定した場合の見込み」**です。

Q: すべてのイタリア産パスタが対象?
A: いいえ。スコープ(対象範囲)は乾燥・非卵・小売用小袋が中心です。冷蔵・冷凍・缶詰、オーガニック(適正な認証付)、グルテンフリー、5ポンド超の大袋などは除外されます。

Q: Barillaは対象?
A: 米国内生産のBarillaパスタ(原産国:米国)は対象外です。イタリア製のBarilla(原産国:Italy)は、非個別審査企業として91.74%(暫定)の対象リストに含まれています。SKUごとの原産国確認が必要です。

時系列(主要な日付)

  • 2024年7月1日: AD年次見直しの申請機会を告知
  • 2024年8月14日: 年次見直し開始(対象18社)
  • 2025年8月21日: 米・EUの相互関税枠組み合意を発表
  • 2025年9月1日: 相互関税(15%枠)の段階的実装開始
  • 2025年9月4日: AD暫定結果を公表(91.74%)
  • 2026年1月初旬: AD最終結果の公表見込み(延長がない場合)

主要ソース(一次資料・公式)

  • 米官報 (Federal Register): 「Certain Pasta from Italy」暫定結果(91.74%)、企業リスト、手続・スケジュールの明記
  • 米官報 (Federal Register): 相互関税の実装告示(米・EU枠組み、EU品の15%適用等)
  • イタリア外務省・報道各社: 対米タスクフォースの開催と91.74%への異議表明
  • Barilla: 米国内のAmes (IA) / Avon (NY) の生産拠点について

米上院、「グローバル相互関税」阻止の決議を可決

(報道各社・公式資料の突き合わせ。日時は米東部時間。現在: 2025年11月1日)

1. 何が起きたか(結論)

10月30日(木)、米上院はS.J.Res.88(大統領が関税根拠に用いた国家非常事態の終了を求める共同決議)を51対47で可決しました。これは、トランプ政権による世界一律の「相互関税(リシプロカル)」の土台を外す内容です。

共和党からミッチ・マコネル氏、ランド・ポール氏、スーザン・コリンズ氏、リサ・マーカウスキー氏の4名が民主党側に同調し、賛成に回りました。

ただし、決議が直ちに効力を持つわけではありません。下院は少なくとも2026年3月31日まで、この種の関税無効化案件を本会議で採決しない運営ルールを採用しています。仮に下院を通過しても大統領の拒否権行使が見込まれるため、今回の可決は政策的な牽制や象徴的な意味合いが強いとみられています。


2. 「グローバル相互関税」とは

2025年4月2日、大統領が「貿易赤字は国際的緊急事態である」と宣言し、IEEPA(国際緊急経済権限法)を根拠に発表した関税パッケージ(通称**『リベレーション・デー関税』**)を指します。

主な内容は以下の2点です。

  • 全ての国からの輸入品に対し、**一律で10%の「基準関税」**を課す。
  • 上記に加え、対象国に応じて追加関税を上乗せする。

その後、7月9日にブラジル(50%)、7月10日にカナダ(最大35%)への個別の上乗せ措置が発表され、国内外で反発が拡大していました。


3. 直近3つの関連採決(上院)

日付案件(共同決議)票決概要
10/28S.J.Res.81(ブラジル関税の無効化)52–48可決
10/29S.J.Res.77(カナダ関税の無効化)50–46可決
10/30S.J.Res.88(グローバル相互関税の無効化)51–47可決

※注: いずれも下院での手続きと大統領署名(または拒否権の無効化)が必要なため、現時点では実際の関税率に変更はありません


4. 投票の内訳とねらい

10月30日のS.J.Res.88では、共和党のミッチ・マコネル(KY)、ランド・ポール(KY)、スーザン・コリンズ(ME)、リサ・マーカウスキー(AK)の4氏が賛成しました。

過去の同趣旨の決議(4月30日、S.J.Res.49)は49–49の同数となり、副大統領(JD・ヴァンス氏)のキャスティングボートで否決されていました。今回は、共和党からの造反が拡大した形です。

民主党側の推進役は、ロン・ワイデン上院財政委員会ランキングメンバー(筆頭委員)です。IEEPAの(乱用とも指摘される)適用による包括的な関税に対し、議会(特に上院)が持つ貿易権限を回復させることが狙いです。


5. 経済的影響の評価(公表値・推計)

  • 税収: 2025年の関税導入以降、8月時点までに新規関税分として約880億ドルの関税収入を計上(イェール大学Budget Labの集計)。
  • 家計負担: イェール大学Budget Labの推計では、1世帯あたり年間1,600ドルの短期的な実質所得損失(代替効果考慮後)。
  • GDP: Tax Foundationの推計では、今後10年のGDPを0.5%程度押し下げるとされています。

これらの数字は、関税が「海外へのコスト転嫁」ではなく、国内価格に転嫁されやすい傾向を改めて示しています。


6. 今後のシナリオと法廷闘争

  • 司法の動き: IEEPAを使用した包括関税に対し、企業側が違憲性を問い提起した訴訟が連邦控訴裁判所で審理中です。司法判断が政策の持続可能性を大きく左右します。
  • 下院の動き: 現行の運営ルールにより、下院は少なくとも2026年3月31日まで上院可決分を棚上げにできる状態です。よって当面は実体経済・貿易実務に即時の変更は生じない見込みです。

7. 日本・企業サイドの実務ポイント

  • 上院可決は、直ちに関税撤廃を意味しない実務上の輸入税率は現状維持です。請負価格・見積り・在庫の前提を即座に変更しないことが重要です。
  • 政策リスクは縮小傾向上院で3件連続(ブラジル・カナダ・グローバル)の無効化決議が可決されたことで、包括関税への政治的抵抗は明確になりました。これは価格交渉や契約条項(関税トリガー条項など)での交渉材料になり得ます。
  • 用語の整理「グローバル相互関税」とは、『リベレーション・デー関税』パッケージ(全品目10%基準+国別上乗せ)を指します。日本向け輸出も原則対象という設計思想です。ただし、今回の上院決議が実効力を持つ(=関税が無効化される)には、下院可決と大統領署名が前提です。

8. 参考タイムライン

  • 2025/4/2: 国家非常事態宣言(『リベレーション・デー関税』発表、基準10%)
  • 2025/4/30: 上院の初回無効化決議(S.J.Res.49)、49–49の同数となり副大統領の投票で否決
  • 2025/7/9: ブラジル関税50%を発表(8月1日発効予定)
  • 2025/7/10-11: カナダ関税35%を発表(8月1日発効予定)
  • 2025/10/28–30: 上院がブラジル→カナダ→グローバルの順に3決議を連続可決

2025年10月30日時点 米韓相互関税交渉の整理

1. 概要と交渉の前提(2025年の米関税政策転換)

米韓の「相互関税」交渉は、2025年に行われた米国の大幅な関税政策転換を前提に進んでいます。

  • 米国の新政策(概要):
    • IEEPA(国際緊急経済権限法): 4月の大統領令(7月改定)に基づき、「国別相互関税」を導入。
    • 通商拡大法232条: 適用を拡張。
      • 鉄鋼・アルミ: 一律50%に引き上げ(6月4日~、英国除く)。
      • 自動車: 当初25%を通告(その後、日韓とは交渉により15%で合意)。
      • 半導体・医薬品・銅: 新規調査を開始。
  • KORUS(米韓FTA)の位置づけ:
    • KORUS自体は存続していますが、上記の新設されたIEEPAおよび232条の関税枠組みが、FTAの外側から実質的に上書き(優先適用)される形で運用されています。

2. 米韓交渉の最新状況(10月30日時点)

  • 7月30日 骨子合意:
    • 米国は韓国に対し「15%の国別相互関税(IEEPA)」を適用。
    • 韓国向け「自動車・部品関税(232条)」を15%へ引き下げることで合意。
    • 韓国側は「3500億ドルの対米投資」および「1000億ドルのエネルギー購入」を約束。
  • 10月29~30日 会合:
    • 自動車関税15%への引き下げなど、7月の政治合意内容を再確認しました。
  • 現状と論点:
    • 米議会調査局(CRS)は「7月の合意は骨子こそ発表済みだが、詳細の最終化と法的実装(大統領令や官報告示)が一部未了である」と指摘しています。KORUSとの法的な整合性や、議会の関与のあり方が引き続き論点となっています。

3. 合意事項の詳細(確定・政治合意)

A. 確定・運用中(米側実装済み)

  • 国別相互関税(IEEPA): 15%
    • 適用開始: 8月7日から韓国に適用済み(CBP案内、CRS記載)。
    • 運用: 包括的な「15%キャップ」として機能します。
      • MFN(最恵国待遇)税率が15%未満の場合: 差額を上乗せ。
      • MFN税率が15%以上の場合: 追加関税なし。
  • 232条(鉄鋼・アルミ): 50%
    • 適用開始: 6月4日から発効済み。
    • 運用: KORUS(FTA)の有無にかかわらず一律で課税されています(FTAによる免除不可)。

B. 政治合意済み(米側の最終実装待ち・確認中)

  • 自動車・部品: 15%へ引き下げ
    • 現行の25%(232条)から15%への引き下げで合意(日本と同水準)。
    • 注記: 運用開始のための最終的な米側告示(大統領令や官報)は未掲示との報道があり、実務開始時期の確認が必要です。
  • 個別品目の緩和・優遇
    • 航空機部品、ジェネリック医薬品: 関税ゼロ(韓国向け)。
    • 木製品、医薬品など: 最も低い関税区分を適用。
    • 半導体: 「台湾より不利に扱わない」ことを保証(今後の232条「半導体」調査の結果に連動)。
  • 韓国側 対米コミットメント
    • 投資: 3500億ドル
      • (内訳: 現金2000億ドル(年200億ドル上限の分割)、造船1500億ドル(融資・出資の組み合わせ))
    • 調達: エネルギー1000億ドル購入。
    • 注記: 投資の設計・配分は、米商務長官が主宰する委員会が所管する予定です。

4. 米日交渉との比較と相違点

  • 米日合意の状況:
    • 7月の骨子合意を受け、9月4日に大統領令(EO 14345)で実装済みです。
    • 「国別相互関税15%(MFN込み上限扱い)」および「自動車・部品15%」が9月16日から発効・運用開始されています。
    • 民間航空機・部品はIEEPAと232条の双方を免除するなど、制度文書が完備しています。
  • ビジネス視点の早見表(米韓 vs 米日)
論点米韓(韓国)米日(日本)実務ポイント
枠組みKORUS存続。ただしIEEPA/232条が上書き従来協定に加え、EO 14345で制度化FTAベースではなく大統領令ベースの可変制。撤回リスク管理を。
国別相互関税15%(8月7日適用)15%(9月16日発効、MFN込み上限扱い)仕入・販売価格式の見直し(「15%キャップ」の読み替え)が必要。
自動車・部品(232)15%に引き下げで政治合意(実装文書は要確認)15%で運用開始済(9月16日~)対韓は発効告示の確認まで通関・契約の暫定条項を。
航空機(民間)部品はゼロ(報道ベース)相互関税+232とも免除(民間航空機・部品)日本は航空機分で完全免除の明文化あり。韓国は部品ゼロの扱いを監視。
半導体台湾と同等以上の扱い保証(232調査の結果に依存)他国より不利にしない趣旨(232措置次第)232調査が東アジア各国へ波及。サプライチェーンの原産・加工証憑強化。
鉄鋼・アルミ(232)50%の高関税維持50%(日本向け一般免除なし。航空機関連は別)素材コストは日韓とも高止まり。米内製・在庫戦略の再設計が必須。
投資・調達義務投資3500億ドル+エネルギー1000億ドル投資5500億ドル、農産品・航空機等の購入コミット未達で関税再引き上げ条項あり(日本側EO)。実施KPIを随時確認。
実装の確度一部は未告示(自動車15%など)文書完備(EO・官報・CBP通達)日本は安定運用フェーズ、韓国は最終告示の追跡が要件。
  • 押さえるべき主な違い(日韓比較)
    1. 制度の成熟度: 日本は実装完了(EO 14345等で文書完備)。韓国は一部が政治合意段階(自動車15%など最終告示待ち)です。
    2. 自動車: 最終着地点は両国とも15%ですが、日本は9月16日発効済、韓国は告示待ちという時間差があります。
    3. 航空機関連: 日本は「民間航空機・部品」がIEEPA/232条双方から包括的に免除(明文化済み)。韓国は「部品」のゼロ関税が報道ベースです。
    4. 金属素材(232条 50%): 両国とも高関税が継続していますが、日本の航空機関連部材だけは別枠で免除されています。

5. 日本企業への実務インパクトと対応(チェックリスト)

  1. 原価・見積りの標準パラメータ更新
    • 対米輸出(日本製): 「15%上限」を前提にHTSコード別に再計算してください(MFNが15%以上なら追加関税なし)。
    • 調達(韓国由来部材): 鉄鋼・アルミ(232条 50%)は引き続きコストに加味が必要です。原産地・HTSの棚卸しを推奨します。
  2. 韓国サプライチェーンの「移行期」管理
    • 自動車・部品(15%): 韓国からの調達品に関わる自動車15%関税の発効タイミングは、米側告示(官報)およびCBPの実務通達(CSMS番号等)で必ず確認してください。
    • 契約: 関税改定(スナップバック条項含む)や価格転嫁に関する条項を見直してください。
  3. 半導体・電池サプライチェーンの証憑強化
    • 232条「半導体」調査: 装置、基板、レガシー品も対象です。第三国経由の転送も監査対象となるため、部材・工程の可視化(BoM起点の原産トレーサビリティ)と証憑整備を前倒しで実施してください。
    • FEOC/PFE規制: クリーンエネルギー税額控除(30D等)の懸念外国団体(FEOC)要件が2025年に拡大。韓国製電池・素材も中国等の関与度合いでクレジット適否が変動するため、税務・通関の二重チェックが必須です。

6. (参考)基礎データと法令ソース

  • CRS(米議会調査局)レポート: 7月合意の未確定点、自動車15%計画、韓国向けIEEPA15%適用状況。
  • 米国官報/大統領令: 鉄鋼・アルミ232条(50%、6月4日発効)、米日合意(EO 14345、9月16日発効)、232条「半導体」調査告示。
  • 主要報道・シンクタンク(KEIA等): 米韓10月合意詳細(自動車15%、航空機部品ゼロ)、韓国側投資枠内訳、半導体「台湾以下不利なし」条項。

中国:電池材料・人工黒鉛陽極材の輸出管理強化

一目で把握(結論)

  • 新たな規制(2025年): 2025年10月9日、商務部(MOFCOM)と税関総署が公告2025年第58号を発出。リチウム電池、正極材、人工黒鉛陽極材および関連設備・技術を輸出許可制に追加。2025年11月8日施行。
  • 既存の黒鉛規制(2023年): 2023年10月20日、公告2023年第39号により、高純度人工黒鉛や天然鱗片黒鉛(球状・膨張等を含む)が許可制に追加済み(2023年12月1日施行)。

何が「対象」か(抜粋)

2025年 新規制(公告第58号)対象

  • 電池そのもの:
    • 重量エネルギー密度300Wh/kg以上の充放電式Li-ion電池(電池セル/パック)。(参考HS:85076000)
  • 正極関連:
    • LFP(圧実密度≥2.5 g/cm³、グラム容量≥156 mAh/g)、三元系前駆体(NCM/NCA)、リチウムリッチマンガン系正極材。
    • 製造設備(ローラー炉、混合機、粉砕機など)。
  • 人工黒鉛「陽極材」関連:
    • 人工黒鉛陽極材(管制コード:3C901.b.1)。
    • 人工+天然の混合陽極材(管制コード:3C902.b.2)。
    • 製造設備(造粒釜≥5m³、箱体炉/Acheson炉/内串炉/連続黒鉛化炉、CVD回転窯等)。
    • 製造技術(造粒、連続黒鉛化、液相被覆)。
    • ※具体的な装置・工程名が明示されており、実務での判定がしやすくなっています。

(参考)2023年 既存規制(公告第39号)対象

  • 黒鉛材料そのもの:
    • 高純度・高強度・高密度の人工黒鉛材とその製品(参考HS:3801100030, 3801909010, 6815190020 など)
    • 天然鱗片黒鉛とその製品(参考HS:2504101000, 2504109100, 3801901000, 3801909010, 3824999940, 6815190020 など)

手続き(輸出者がやること)

  1. 輸出許可の取得:
    • 省級商務主管部門経由で申請。契約書、技術説明/試験成績、最終用途・最終ユーザー証明などを提出します。
  2. 通関申告の明記義務:
    • 管制該当時: 備考欄に「属于两用物项」+管制コードを記載。
    • 非該当の場合(特に閾値近傍): 「不属于两用物项」+具体パラメータを記載。疑義発生時は通関保留の可能性があります。
  3. 許可の有効期間:
    • 一般的に6か月更新が標準運用(2023年措置の解説に基づく)。実案件では許可証の条件を遵守する必要があります。

影響(ビジネス視点)

  • 陽極材・装置の輸出にリードタイムが発生:
    • 装置・工程(連続黒鉛化、液相被覆、CVD回転窯など)が管制対象のため、ライン新設・増設案件の輸出計画で許可待ちの遅れが生じます。
  • 境界の技術パラメータが実務のボトルネック:
    • エネルギー密度300Wh/kg、造粒容積、CVD回転窯の寸法等、数値閾値の立証資料が鍵となります。
  • 既存の黒鉛規制(2023年)との二重管理:
    • 原料黒鉛(人工/天然)と、最終の陽極材/設備・技術とで許可の層が異なるため、BOM(部品表)とプロセスで該当性を二重にチェックする必要があります。
  • 国際環境:
    • 各国もグラファイトや電池材料を巡り貿易措置を強化中です(例:米国の301関税変更・免除失効や対中AAMの反ダンピング動向)。調達コスト・需給に波及します。

直近スケジュール

  • 2025年11月8日: 公告2025年第58号 施行(電池・正極・人工黒鉛陽極材・関連設備/技術)。
  • 2023年12月1日: 公告2023年第39号 施行済(人工/天然黒鉛材料)。

実務チェックリスト(即対応用)

  1. 該当判定表を作成: 製品(電池/陽極材/黒鉛原料)、設備、技術の3レイヤーで管制コード(3A/3B/3C/3E)と閾値を横串で管理する。
  2. 申請パッケージを標準テンプレ化: 契約書、仕様書/試験成績、フローチャート、最終用途・最終ユーザー証明(End-Use/End-User)を準備する。
  3. 税番≠管制コードのギャップを解消: HSコードはあくまで参考。輸出管理は「管制コード」で判断する運用に社内を統一し、通関備考の記載ルールを徹底する。
  4. 閾値近傍の説明責任を強化: 非該当申告でも具体数値の記載と裏付け資料を準備し、税関の疑義による通関保留を避ける。
  5. 調達・販売計画を見直し: 装置・治具の海外移設、試作品・サンプル出荷も許可要否を確認。許可取得リードタイムを考慮し、契約条項(許認可前提、不可抗力)を更新する。

主要出典(抜粋)

  • 公告2025年第58号(電池・正極・人工黒鉛陽極材・装置・技術):対象品目・閾値・申告義務・施行日。
  • 公告2023年第39号(黒鉛材料):対象黒鉛と参考HS、申請書類、施行日。
  • MOFCOM FAQ(2024年更新):許可申請手順と判定基準の解説。
  • 香港TID(工業貿易署)解説:58号の対象整理と施行日。

米国「相互関税(Reciprocal Tariffs)」国別レート一覧(2025年10月26日時点)

本文書は、2025年10月26日時点で公表・報道されている米国「相互関税(Reciprocal Tariffs)」の国別最新レートをまとめたものです。ここでいう「相互関税」は、2025年の大統領令(EO 14257ほか)に基づき米国が輸入品に課す追加の従価関税を指します。多くの国は2025年7月31日付EO 14326(8月6日官報掲載)のAnnex Iで改定されました。カナダ・メキシコ・ブラジル・中国については別の大統領令により相互関税とは別枠または一時停止等の措置が併存しています。

作成方針

根拠の整理:官報(Federal Register)掲載の大統領令と付属書(Annex)を一次情報として特定し、必要に応じてホワイトハウス/USTR発表や実務向けファクトシートで補強しました。

最新化:2025年7月31日のEO 14326(8月6日掲載)Annex Iを基準に、中国・カナダ・メキシコ・ブラジルの後続措置(8月以降)と、東南アジア数か国の10月発表を反映しています。

出力形式:国名/関税率/出所/備考の形式で一覧化し、前日(10月25日)からの差異の有無を備考に明記しました。

検証:表下にEUの算式、別枠IEEPA関税、対中一時停止などの適用ルールを注記しています。

国別関税率一覧

出所は特記なき限りEO 14326(2025年7月31日)Annex Iです。レートは「追加」関税(ad valorem)です。

国名関税率(追加)出所備考(前日からの差異・特記事項)
Algeria30%EO 14326 Annex I差異なし
Angola15%同上差異なし
Bangladesh20%同上差異なし
Bosnia & Herzegovina30%同上差異なし
Botswana15%同上差異なし
Brazil10%(相互関税)EO 14326 Annex I別枠:2025年7月30日のEO 14323により**+40%の追加関税(多くの品目に適用、主要例外あり)→合計最大50%**。Annex Iの10%は残存。前日差異なし
Brunei25%EO 14326 Annex I差異なし
Cambodia19%同上前日差異なし。10月の米・カンボジア合意公表:相互関税19%維持、一部品目は将来0%候補と明記
Cameroon15%EO 14326 Annex I差異なし
Canada*35%(IEEPA別枠)EO 14325(7/31)/ 官報相互関税の対象外。北側危機対処のIEEPA追加関税として25%→35%(2025年8月1日発効)。USMCA原産など例外あり。前日差異なし
Chad15%EO 14326 Annex I差異なし
China*10%(相互関税の国別上乗せは一時停止中)EO 14334(8/11)/ 官報対中の国別「高率」相互関税は2025年11月10日まで停止継続。したがって相互関税は10%のみ(他の通商措置や既存関税は別)。前日差異なし
Côte d’Ivoire15%EO 14326 Annex I差異なし
DR Congo15%同上差異なし
EU品目のHTS一般税率(Column 1)と連動:Column1≧15%→追加0%、Column1<15%→(15%−Column1)EO 14326 Annex I4月2日時点の20%から方式変更(7月31日)。前日差異なし
Falkland Islands10%同上差異なし
Fiji15%同上差異なし
Guyana15%同上差異なし
India50%EO 14329(8/6)/ 官報訂正:2025年8月27日から50%(25%の相互関税+25%のロシア産石油輸入対策関税)に引き上げ。ただし10月報道で15–16%への引き下げ交渉進行中
Indonesia*19%EO 14326 Annex I(4月の32%から7月31日に19%へ)前日差異なし
Iraq35%同上差異なし
Israel15%同上差異なし
Japan*15%同上(4月の24%から7月31日に15%へ)前日差異なし
Jordan15%同上差異なし
Kazakhstan25%同上差異なし
Laos40%同上差異なし
Lesotho15%同上差異なし
Libya30%同上差異なし
Liechtenstein15%同上差異なし
Madagascar15%同上差異なし
Malawi15%同上差異なし
Malaysia19%同上前日差異なし。米・マレーシア合意が10月公表:相互関税19%維持、Annex III品目の一部を0%対象に選定予定
Mauritius15%EO 14326 Annex I差異なし
Mexico*25%(IEEPA別枠)EO 14194ほか / 官報・CBP相互関税の対象外。南側危機対処のIEEPA追加関税25%(USMCA原産等の例外あり)。7月31日に90日延長も、レート自体は25%維持。前日差異なし
Moldova25%EO 14326 Annex I差異なし
Mozambique15%同上差異なし
Myanmar40%同上差異なし
Namibia15%同上差異なし
Nauru15%同上差異なし
Nicaragua18%同上差異なし
Nigeria15%同上差異なし
North Macedonia15%同上差異なし
Norway15%同上差異なし
Pakistan19%同上差異なし
Philippines19%同上差異なし
Serbia35%同上差異なし
South Africa30%同上差異なし
South Korea15%同上差異なし
Sri Lanka20%同上差異なし
Switzerland39%同上差異なし
Syria41%同上差異なし
Taiwan20%同上差異なし
Thailand19%同上前日差異なし。米・タイ枠組み合意が10月公表:相互関税19%維持、一部0%候補
Tunisia25%EO 14326 Annex I差異なし
Vanuatu15%同上差異なし
Venezuela15%同上差異なし
Vietnam20%同上前日差異なし。米・ベトナム枠組みが10月公表:20%維持、一部0%候補
Zambia15%EO 14326 Annex I差異なし
Zimbabwe15%同上差異なし

適用ルールの確認

EUの算式(2025年7月31日以降)

EU域内品目のHTS一般税率(Column 1)が15%以上の場合は追加0%、15%未満の場合は(15%−一般税率)を加算し、合計15%に誘導する方式です。

中国(*)

対中の国別相互関税(高率)は一時停止中です。EO 14334(8月11日)で11月10日まで延長と明記されています。停止中は相互関税10%のみで、他の制裁・特別関税やデミニミス撤廃など別措置は別途適用されます。

カナダ(*)

相互関税のリスト外です。IEEPAに基づく北側国境対処で35%(8月1日発効)となっています。USMCA原産等は別途の扱いです。

メキシコ(*)

相互関税のリスト外です。IEEPAに基づく南側国境対処で25%となっています。7月31日に90日延長が発表されましたが、レートは25%を維持しています。

ブラジル

相互関税10%に加えて、2025年7月30日のEO 14323で**+40%**(対象多数、例外あり)が課され、最大50%となります。主要な例外品目には、オレンジジュース、民間航空機・部品、特定機械、特定金属、エネルギー製品などが含まれます。

インド

2025年8月27日から、ロシア産石油輸入を理由とした追加25%関税(EO 14329)が発効し、合計50%(相互関税25%+追加25%)となりました。ただし、2025年10月下旬の報道では、インドがロシア産石油輸入削減に合意することと引き換えに、米国が関税率を15–16%へ引き下げる交渉が進行中と報じられています。

7月31日改定の背景

多くの国が**15%または19–25%**に再設定され、4月時点のレートから変更されました(例:日本24%→15%、インドネシア32%→19%等)。

前日(10月25日)からの差異まとめ

レート変更の公的発表:本日までの官報・USTR発表に新たなレート変更は確認されていません。

東南アジアの合意発表:マレーシア、タイ、カンボジア、ベトナムについて、相互関税レートは維持(19%または20%)され、一部品目を0%にする”Aligned Partners”向けの選定を進める枠組みが10月に公表されました。

主要ソース

  • EO 14257(2025年4月2日):相互関税の基本枠組み(10%ベース + Annex I国別率)
  • EO 14326(2025年7月31日;8月6日官報):Annex Iの最新国別率(本表の大半)
  • EO 14334(2025年8月11日;8月14日官報):対中の国別相互関税一時停止を11月10日まで延長
  • EO 14325(7月31日):カナダ向け35%(8月1日発効)
  • EO 14194(2月1日)ほか:メキシコ向け25%、その後も維持
  • EO 14323(7月30日):ブラジル向け**+40%**(最大50%)
  • EO 14329(8月6日):インド向け追加25%(8月27日発効)
  • USTR/ホワイトハウスの10月発表(マレーシア/タイ/カンボジア/ベトナム):レート維持と一部0%対象選定方針

補足(読み方)

表の「関税率」は相互関税として上乗せされる追加率です(原則、通常税率や他の特別関税に積み上がります)。

EUは**「15%に到達するよう加算」という算式方式**に変更されており、個々の品目のHTS一般税率を確認する必要があります。

IEEPA別枠(カナダ・メキシコ等)やブラジル+40%は相互関税とは別の大統領令で課される措置であり、実務上は併存し得ます。

米中関税交渉・動向 最新アップデート

2025年10月24日(米国時間)時点:米中関税交渉・動向 最新アップデート

全体要点

  • 新たな交渉ラウンド:米財務長官スコット・ベッセントとUSTRジャミソン・グリアーは、クアラルンプールで中国の何立峰副首相と会談中。大型関税エスカレーション回避と、トランプ大統領と習近平国家主席の首脳会談実現への道筋が目的。注目点は中国のレアアース輸出規制とこれに対する米国の対応。
  • 100%追加関税の予告:トランプ大統領は2025年11月1日から中国からの輸入品に追加で100%関税(現行関税に上乗せ)を課すと表明。ただし中国側対応次第で変更の可能性も示唆。この「追加関税発動」が目下のデッドラインとなっている。
  • 関税休戦の延長:8月12日に両国は高関税発動を回避する90日休戦延長で合意。これにより11月10日まで米30%、中10%の暫定関税水準が維持されている。
  • “Phase One”履行調査:USTRは2020年「Phase One」合意の履行状況について新たな301条調査を開始。追加関税発動の法的根拠拡充を意図。
  • 301条除外品目(178品目)の延長:USTRは11月29日まで特定品目に対する関税除外を延長済。該当HSコードは引き続き除外対象。

関税水準とリスク

  • 現状:8月の協議延長により11月10日までは「米30%:中10%」水準の関税休戦が継続。
  • 上振れリスク:トランプ大統領による「11/1から追加100%」の表明が実行されれば、休戦期限前倒しで関税水準が急上昇する可能性。
  • 対抗措置:レアアース規制拡大に加え、米国は米製ソフト利用製品の対中輸出規制強化なども検討中。

今後の注目日程

  • 11月1日:米国の追加100%関税の発動想定日(交渉進展により変更・撤回の可能性も)。
  • 11月10日:関税休戦延長(90日)の期限。トランプ-習会談もこの前後が節目に。
  • 11月29日:301条除外品目(178)の延長期限。以後の延長要否についてパブコメ手続・官報を要監視。

交渉の主要論点

  • レアアースの安定供給:中国の管理強化により米側は防衛・半導体・EV分野などサプライチェーンの影響を懸念。
  • 輸出管理 両国の応酬:米国はソフトウェア規制拡張を検討中で、AIチップや先端装置にも波及しうる。
  • “Phase One”履行・農産品購入拡大:米国は中国に大豆などの追加購入コミットを要求中。
  • 制制度是正:知財、強制移転、農業・金融サービスの体制面の履行状況も再検証。

企業対応チェックリスト

短期(〜11/10)

  • 船積み前倒し検討(到着日ではなく通関時税率適用に注意)。
  • 301条除外適用(〜11/29)HS再確認と申告書類整備。
  • 価格条項見直し(追加関税転嫁ロジック織り込み)。

中期(〜年末)

  • レアアース等サプライチェーン二線化推進。
  • 重層規制リスク(関税・輸出管理・制裁)のリスト化・管理。
  • 官報・USTRパブコメ監視の定期化。

補足・時系列ハイライト

  • 7/29:ストックホルム協議で休戦延長方針一致(最終判断は米大統領判断)。
  • 8/12:休戦延長で合意、暫定関税水準維持開始。
  • 10/10:トランプ大統領「11/1から100%関税追加」表明。
  • 10/22以降:米国が米製ソフトを利用した対中輸出の包括規制検討。
  • 10/24:クアラルンプールで米中実務協議、USTRがPhase One履行調査着手。

結論・注意喚起

最短11/1、遅くとも11/10が大きな分岐点です。「レアアース規制緩和と100%追加関税提案」のバーター的な妥協が現実的ですが、交渉決裂の場合は急激な関税引き上げ+輸出規制強化シナリオに要警戒です。各社は最新動向を見極め、輸入・生産・契約の「関税セーフティネット」を即点検してください。


参考・出典

  • クアラルンプール実務協議
  • トランプ大統領 100%追加関税表明
  • 関税休戦(〜11/10)延長と現行水準
  • 301条除外品目延長

(必要に応じ一次英文もご提供可能です。)

2025年10月24日(JST)時点、「10月11日以降に変わった(or 追加で動いた)」ポイントを中心に、Section 232(鉄鋼・アルミ)をアップデート

2025年10月24日(JST)時点、Section 232(鉄鋼・アルミ)の最新動向まとめ(複数AIを利用)

1) 10月11日以降の新着・進展

派生品の第2回インクルージョン(追加対象)案が公開・パブコメは終了
商務省BISが2025年9月サイクルの追加対象要請90件超を10月7日に公開し、10月7日~10月21日(米国東部時間)でコメントを受付。10月21日でパブリックコメント期間は終了済。掲載先はDocket BIS-2025-0023。ここで指定されたHTSの派生品が今後の官報告示で正式追加される見込み。該当品目の実名リストはBISのドケットで確認可能。

アルミ”溶解・鋳造(smelt/cast)不明=UN報告”は当該行に200%を自動適用(実務コスト注意)
CBPのCSMS #65340246(2025年6月13日発行)で、アルミ派生品のsmelt/castを”UN”(不明)申告した行に200%関税を課す手順が明記。10月24日時点でもこの扱いが有効で、現場では”UN回避”対応(証憑整備・サプライヤー照会)が実務の最優先事項。

基礎レートや課税設計に10月11日以降の数値変更なし(再確認)
2025年6月4日以降の鉄鋼・アルミ本体&派生品=原則50%(UKのみ25%)は継続。課税ベースは「金属含有価額のみ」で2行計上(金属行/非金属行分離)の運用も継続。”非金属行には相互関税(IEEPA)等が適用されるが、金属行には適用されない”という”アンスタッキング”の原則も変わっていない。

まとめ
10月11日以降の核心は「第2回インクルージョン(追加候補)の審査進行」+「UN=200%の徹底適用で実務負荷増」。税率や「金属含有価額のみ課税」の枠組み自体は据え置き。

2) 制度の現状(2025年10月24日時点の要点リファレンス)

税率水準
鉄鋼・アルミ(本体+派生品)は原則50%、UKのみ25%(EPD条項に基づく特例)。効力は2025年6月4日以降継続。引下げ・停止の公表なし。

課税対象の価額
金属(鉄鋼/アルミ)の含有価額にのみ232を課す(非金属部分は通常関税+相互関税等)。CBPは2行計上(非金属行/金属行)を要求する運用。

相互関税との関係
金属行には相互関税を重ねない一方、非金属行には適用(HTS 9903.01.25/9903.01.33の案内)。

派生品の拡大
2025年8月18日に407サブヘッディングを正式追加(官報8月19日告示)。以後はBISのインクルージョン・プロセスで年3回ウィンドウを開き追加を継続(1月、5月、9月)。

アルミ”ロシア起因”/不明取扱
ロシア起因は200%。smelt/cast “UN”申告行も200%。

UK特例
当面25%維持(EPDの履行評価次第で将来50%やTRQ化の余地)。

除外・クオータ
GAEは2025年3月11日で失効、新規除外の受付停止。既存の「企業別除外」は有効期限/数量上限まで存続。過去の232クオータも3月11日で終了。

FTZ
2025年6月4日以降は**”privileged foreign status”**等、入庫・消費移行での取扱が厳格化。

実務ガイダンス拠り所
CBP CSMS(例:#65236374(鉄鋼)/#65236645(アルミ)/#65936570(鉄鋼派生品追加)/#65936615(アルミ派生品追加))、FAQ。

3) 企業対応(10月11日以降に優先度が上がったチェックリスト)

自社HTSの”派生品”該当性の再点検
2025年8月18日追加分+10月の第2回インクルージョン案件をBISドケット(BIS-2025-0023)でクロスチェック。最終決定→官報で即時課税になるため、製品・部品単位のマッピングを更新。

インボイス/原価内訳の”2行計上”仕様に統一
金属含有価額の算定方法(輸入原価の分解根拠)を社内標準化。非金属行/金属行を分け、金属行に232、非金属行に通常+相互関税等を載せる。監査対応の算定ワークペーパーを常備。

アルミの”smelt/cast”証憑の100%取得(UN回避)
**UN申告=200%**は致命的コスト。一次・二次smelt国/cast国をサプライヤーから宣誓書+裏付資料で取得し、ACE記録と連動。

UK原産の振分け最適化
UKは25%。部材調達・最終加工の切替余地があればUK由来比率の引上げや原産地証明の整備で即効性あり(ただし将来のTRQ/見直しリスクは注記)。

“米国溶解・鋳造→海外加工”の0%特例の掘り起こし
**US melt & pour(鉄鋼)/US smelt & cast(アルミ)を使った派生品は0%(9903.81.92/9903.85.09)**が使える設計。サプライヤー宣誓とトレーサビリティを整備。

既存の”企業別除外”は期限管理と量管理を厳格化
新規申請不可、GAE失効済。

4) 参考:基本セット(実務メモ)

追加関税率原則50%UK25%Federal Register
課税ベース金属(鉄鋼/アルミ)含有価額のみ2行計上推奨Federal Register+1
相互関税との関係金属行には不適用/非金属行には適用content.govdelivery.com
派生品の拡大8/18に大幅追加(官報告示)、第2回公募は10/7公開・10/21締切Federal Register+1
アルミ“UN”UN報告行=200%(ロシア並み)content.govdelivery.com
除外・クオータGAE失効/新規除外停止、既存企業別は期限・数量まで産業安全保障局+1
FTZ・ドローバック特定条件下でprivilegedドローバック不可Federal Register