2025年8月21日(木)発表/報道ベースの、欧米(米国―EU)「関税・通商フレームワーク合意」の要約です。
要旨
- 米国はEU原産品に対し「MFN(最恵国)または15%のいずれか高い方」を適用(実質、多くの品目は15%)。**鋼鉄・アルミは50%据え置き。自動車・部品は条件成立後に27.5%→15%**へ引下げ。ReutersTrade and Economic Security
- 自動車の15%適用はEU側が関税撤廃立法を“提案”した月の初日から発効(遡及)—EUは8月末までの提案で8月1日適用を狙う。Reuters
- **MFNのみ(=追加関税なし)**とする対象:コルク等の希少天然資源、航空機・同部品、ジェネリック医薬品と原料(9月1日から)。Trade and Economic Security
- EUは米国の工業品関税を撤廃、農水産品の市場アクセス拡大を約束。デジタルは電子的送信への関税不課継続・ネットワーク使用料を導入しない方針を明示。Trade and Economic Security
- ワイン・蒸留酒は現時点で特例対象外(追加協議へ)。Reuters
- 需給面ではEUが米国産エネルギー(LNG・原油・原子力関連)を2028年までに7,500億ドル規模で調達、AIチップを少なくとも400億ドル購入、EU企業の対米投資6000億ドルを見込む、と共同文書に明記。Trade and Economic SecurityReuters
- 位置づけは**“合意の枠組み(Framework)と共同声明”で、実施は各サイドの国内手続で具体化。APも「骨子は出たが作業継続」**と評価。Trade and Economic SecurityAP News
合意の骨子
- 関税水準の基本線
- 米国→EU品:MFNまたは15%(高い方)。鋼鉄・アルミは**50%**据え置き。Reuters
- 例外(米国がMFNのみ):コルク等の希少資源/航空機・部品/ジェネリック医薬品+原料(9/1発効)。Trade and Economic Security
- 自動車・部品
- 現行27.5% → 15%へ。EUが対米関税撤廃立法を「提案」した月の初日から遡及。EUは8月末提案で8/1適用を目指す、米側も「数週間以内」の緩和を示唆。Reuters
- 医薬・半導体・木材など
- 232関税を含め合計15%の上限を表明(※ジェネリックは上記どおりMFNのみ)。Trade and Economic Security
- EU側の市場開放
- 米国の工業品関税を撤廃、農水産品の優先アクセス(ナッツ、乳製品、果実・加工食品、種子、豚肉・バイソン等)。Trade and Economic Security
- デジタル・規制協力
- 電子的送信への関税を課さない、EUはネットワーク使用料を導入しない、自動車の相互承認を目指すなど非関税分野の整備を明記。CBAM/EUDR/CSDDD/CSRDの対米配慮も盛り込み。Trade and Economic Security
- エネルギー・技術・投資
- EUが米国産エネルギーを7,500億ドル規模で調達、AIチップ400億ドル購入、EU企業の対米追加投資6000億ドル(~2028)。Trade and Economic Security
- 未決/今後協議
- ワイン・スピリッツの扱いは未決。**鉄鋼・アルミ50%は維持しつつ、将来TRQ(関税割当)**等の協議余地を記載。Reuters
セクター別インパクト早見
- 自動車:EU→米の輸出は条件充足後に27.5%→15%。立法“提案”で発効という“早いトリガー”がポイント。価格設定・在庫移送・通関タイミングの再設計を。Reuters
- 医薬(ジェネリック):MFNのみ(多くは低率~無税)。先発医薬や半導体・木材は合計15%上限。開発・購買ポートフォリオの見直し余地。Trade and Economic Security
- 航空機・部品:MFNのみに明確化。長期契約の見直しで即効のコスト改善が見込める。Trade and Economic Security
- 酒類(ワイン・蒸留酒):現時点特例なし。販価・販促計画は保守的に。Reuters
- 鉄鋼・アルミ:50%据え置き。米向け完成品・組立品の232拡大影響を要精査(HS構成材の含有を含む)。Reuters
- デジタル取引:電子的送信は関税不課継続。EUのネットワーク使用料不採用でクラウド・配信の追加コスト懸念が後退。Trade and Economic Security
タイムライン
- 7月27日:トランプ米大統領とフォンデアライエン欧州委員長がスコットランド・ターンベリーで基本合意。Reuters+1
- 8月21日:**共同声明(Frameworkの文書化)**を公表。主要率・条件・協力分野を明文化。Trade and Economic Security
- 8月末見込み:EUが関税撤廃立法を提案→**自動車は8月1日に遡及して15%**を狙う。Reuters
- 9月1日発効:MFNのみ適用(コルク/航空機・部品/ジェネリック医薬+原料)開始の期日として明記。Trade and Economic Security
実務チェックリスト
- 品目別HSコード×原産地の棚卸(232・15%枠・MFN例外の当てはめ)。Trade and Economic SecurityReuters
- 価格条項の見直し(Incoterms・関税スライド条項・サーチャージの更新)。
- 通関タイミングの最適化(自動車は立法“提案”月の初日遡及を活用)。Reuters
- 供給網再設計(将来の**原産地規則(ROO)**交渉を見据え、第三国コンテンツ比率を是正)。Trade and Economic Security
- 酒類・鉄鋼・アルミは保守的計画(現状救済なし)。Reuters
- デジタル/SaaSは関税不課・ネットワーク使用料なしを前提に価格モデル再検討。Trade and Economic Security
かんたん損益インパクト例(自動車)
- CIF価格**€50,000**のEU車を米国へ:
- 現行27.5%=€13,750、新率15%=€7,500 ⇒ 差額€6,250の関税削減。
- ※実際の適用はEUの立法“提案”月に遡及。Reuters
相互関税の調査結果
※プロジェクト基準フォーマット
国名 | 関税率 | 出所 | 備考 |
---|---|---|---|
アメリカ(対EU:一般品) | 15%またはMFNの高い方 | 欧州委・共同声明、Reuters Trade and Economic SecurityReuters | 鋼鉄・アルミ除く。9/1以降、特定品目はMFNのみ。 |
アメリカ(対EU:自動車・部品) | 15%(条件付き) | Reuters Reuters | 現行27.5%。EUが関税撤廃立法を提案した月の初日から遡及適用。 |
アメリカ(対EU:鋼鉄・アルミ) | 50% | Reuters Reuters | 当面変更なし。将来TRQ等を検討余地。 |
アメリカ(対EU:MFNのみ適用) | MFN | 欧州委・共同声明 Trade and Economic Security | コルク等/航空機・部品/ジェネリック医薬+原料。9/1発効。 |
EU(対米:工業品) | 撤廃へ | 欧州委・共同声明 Trade and Economic Security | 立法措置が前提。農水産物も優先アクセス拡大。 |
EU(対米:酒類等) | 未決 | Reuters Reuters | ワイン・蒸留酒などは今後協議。 |
注意点
- これは最終協定ではなく、実施条件付きのフレームワーク+共同声明。詳細規則(原産地、適用手続、除外枠など)は今後詰めるため、社内ポリシーは“可変”を前提に。Trade and Economic SecurityAP News
FTAでAIを活用する:株式会社ロジスティック